2020S 司法2
2020-06-03
更新・新設
6/3の授業の予習とは関係のないお知らせ
「自由と幸福の天秤」をどう考えればよいか――大屋雄裕さん(法哲学者)の場合〔後編〕
前編
ご質問をいただきましたので、少し長めに書きました。
「法学部進学ガイダンス」
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予習資料
必須.icon藤田宙靖「[講演録]最高裁判例とは何か」横浜法学22巻3号(2014年)
「機関リポジトリ」をクリックし、
次に出るページで「22-3-11.pdf」を見つければ、そのPDFファイルです。
万一見つからない場合、Google等で「藤田宙靖 最高裁判例とは何か」を検索してみてください。
授業の目標は、この講演録を読解することです。話の内容と流れをつかんでください。
授業の最後に出す課題も、これを読んで普通にわかる範囲のものとする予定です。難問・奇問は出しません。
この講演録では法令の号番号を殊更に漢数字で書いていますが、そのようなことは不要です。号番号は横書きなら算用数字で書くのが普通です。
「四」の2つの例では、「1」(猿払・堀越)に時間をかけます。
「2」(メイプルソープ)は、講演の内容に合致する実例ではないように思います。なぜ私がそう考えるかは、授業で若干説明します。それ以上には、時間をかけません。
猿払判決と堀越判決については、この授業では、藤田講演録を読んでわかる範囲の理解だけで十分です。しかし、もし、余力・関心がある場合は、判決の実物を見てください。その場合、それぞれ、同じ日付で2件の類似判決があるので、それぞれ、下記の事件番号のものを見てください。藤田講演録が引用しているほうを選びました。憲法判例百選1でも、これらだけが選ばれています。かりに、授業で映写する場合は、裁判所サイトのPDFファイルを用います。
猿払判決:昭和44年(あ)第1501号
堀越判決:平成22年(あ)第762号
裁判所サイト
猿払判決と堀越判決に関する以上の情報は「念のため」のものです。授業の目標は、藤田講演録を読解することです。上記の憲法判例を理解することそれ自体は、授業の目標ではありません。
いつものように、わからない点などがあればSlack等で知らせてください。(今回は、そのように書くのを忘れていました。もし、書いていないので遠慮していたということであれば、直前でも可能な限りは拝見しますから、遠慮なく送ってください。)
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立証責任
実例(前回)
「本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない」
→ これで結論を得ている。
一般的説明
「ooである」か「ooでない」か
論理学の1つの体系では、その2つしかない
https://gyazo.com/1c9e1a51e396028f9014954d0e4f09c5
しかし、法律の議論では、「どちらともいえない」がある。
https://gyazo.com/e8eae697a5135d63648d043083347776
「どちらともいえない」というときに不利な結論となる側に「立証責任がある」という。
結論として「どちらともいえない」場合には「ooでない」という扱いになる、という状態を指して、「原告Xさんに立証責任がある」と言う。
立証を要する事項が、要件甲と要件乙と複数ある場合、甲と乙で立証責任の所在が異なることがある。
立証責任は、結論に関する考え方なので、議論の途中で、立証責任のない側が「何も立証活動をしなくてもよい・できない」というわけではない。
綱引きの喩え
「1分を経ても赤丸が中立地帯にある場合はYの勝ちとする」というルールがあるときには、「Xに立証責任がある」ということになるが、だからといって、Yが全く引っ張らないと、開始後2秒でXの勝ちとなる。
https://gyazo.com/d2d720f0cc22a7c498905c90e02cada9
一つの帰結
「ooでないとはいえない」≠「ooである」
用例
原告Xに立証責任がある。
要件甲については被疑侵害者に立証責任があるが、要件乙については著作権者に立証責任がある。
出るところに出れば公取委に立証責任があるから、それを前提に交渉する。
Q
立証責任が両者共に存在する場合、結論は、立証責任の量や質(重み?)で決定されるのでしょうか。
立証責任がどちらにあるかは、あらかじめわかるか?
ooでないとは言えないは、ooであるまたはooでないどちらかに有利ということは決まっていないのですか?
立証責任はどちらにあるかを分かった上で裁判を行うのですか。それとも、立証責任がどちらにあるというのはいつわかるのでしょうか。
どちらに立証責任があるかは関係する法律を読めば(提示される証拠が皆無の状態でも)関係者には大体想像がつくものなのでしょうか。
立証責任はどのタイミングで決定するのでしょうか。裁判所が事実を認定した直後でしょうか。それとも原告と被告の証言を聞く中で決めるのでしょうか。
「どちらともいえない」状況で、有利不利を決めずに裁判を終わらせることはできないということですか。白黒つけなければいけないのでしょうか。
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9:15
藤田講演録
わからないところについて質問を寄せてください。
エピソード 288
最高裁判例の基本的性質 288
1
2
3
言葉の整理
「判決例」と「最高裁判例」「判例理論」
「事例判決」と「法理判決」
具体例(「判例変更」の意味)
猿払判決と堀越判決
(メイプルソープ平成11年判決と平成20年判決)
結びに代えて
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次回について
最初の30分は、白石から、次々回準備のための簡単な説明等。
残り時間は、「東大法曹会」から、弁護士お二人によるお話。
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課題
締切:6月5日(金)朝8:00
注意事項
必ず自分で書くこと。提出期限までは、自分が書いたものを他の学生に見せないこと。提出されたものは大学と担当教員のもとに記録として残るので、かりに、発見されずに良い成績を得られたとしても、将来、不利益な結果をもたらす可能性もある。
(そのような場合には、結論が出るまでの間に適切な手続がとられるので、問題のある行為をしていないのに不適切に疑われて不利益を受ける、という心配は無用である。)
資料を参考としながら書いてよい。
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Q&A
学者の方々は最高裁に指針としての判決、一般論的な判決を求める傾向があるように感じました(有斐閣の憲法判例百選を見た感じですが)。しかし、最高裁としては法理というか、一括的に論ずることを避けた方が無難でしょうし、特に法令や行政による法令の適用を違憲とすることに対してきわめて慎重な姿勢がみられると思います。僕には、学者の方々が書いた教科書で強調されるほどには、実務家は法的安定性を重視していないように感じられるのですが、実際どうなのでしょうか。
shiraishi.icon
はい、「傾向的には」おっしゃるようなところはあると思います。ただ、最後に時間がなくなったので再論できなかったのですが、私個人は、最高裁にも、一般論を述べて世の中に影響を与えようという意識はあるのではないか、弁護士等の実務家も、ある程度は固まった一般論があったほうがよいと考えている要素はあると思います。そうでなければ、最後に著者が述べていたように、「これは最高裁の判例である」という言葉遣いにはならないのではないか、と思います。しかし、程度問題としては、おっしゃるように、違いはあるかもしれませんね。
どちらに立証責任があるかは関係する法律を読めば(提示される証拠が皆無の状態でも)関係者には大体想像がつくものなのでしょうか。
shiraishi.icon
「条文を読めば立証責任の所在(どちらにあるか)はわかる」という考え方が、1つの「学説」として存在します。しかし実際は、「確かに目安にはなるが、その他の要素も考慮しながら決まる」というのが安定した考え方だと思います。詳しくは、民事訴訟法・刑事訴訟法をはじめとする各専門科目で学ぶ点です。
判例を読むときには「Aであると言える/言えない」 のAが立証されるべきもので、この文と裁判の「勝敗」を見比べれば立証責任の所在はわかるという理解でよいですか。
shiraishi.icon
全ての最高裁判決・決定が必ずその表現になっている、という確信はないのですが、多くの場合はそうだと思いますし、忘れられる権利のGoogleの最高裁決定は、そのような図式が綺麗に出ている事例だ、と言えると思います。